世界最大のヘッジファンド RAY DALIO レイ・ダリオ

世界最大のヘッジファンドが貫く風変りな「人生とビジネスの原則」

RAY DALIO

リーマン・ショックをあらかじめ予測し大きな損失を免れた、投資会社のブリッジウォーター。同社のCEO,レイ・ダリオが社員に説くのは、「金の儲け方」ではなく「正しく生きよう」という精神論だ。
ブリッジウオーター・アソシエーツは、世界で最も大きく、そして最も風変わりなヘッジファンドだ。この会社について理解するために、まず、食堂のグリーンピースにまつわる話をしよう。
金融業界が懸命に投資に励んでいたクレジットバブル真っ最中の2005年。ブリッジウオーターの若手社員ホールデン・カーノフスキーは、社内のメッセージボードにある不満を投稿した。それは、食堂のメニューがとてもひどく、とくにサラダバーのグリーンピースの味が我慢ならないという内容だった。
「こんな大事な時期にばかげてる。時間の無駄だ」と反応したのは、当時のCOO(最高執行責任者)、ホープ・ウッドハウス。
しかし、CEOのレイ・ダリオ(61)は問題を改善すべく検討することに決めた。「ブリッジウオーターには。小さな問題々などというものはない」というのが、彼の持論だからだ。
「その後、食堂の料理は格段に美味しくなりました」とカーノフスキーは語る。
米コネティカット州ウェストポートに本社を構えるブリッジウオーターは前年に続いて2010年も、ヘッジファンドランキングの運用資産額でI位に輝いた。
また、昨年に運用資産を150値ドル(約1兆2000値円)以上増やし、36年におよぶ同社の歴史で最高の成績となった。放送局CNBCの調べによると、ブリッジウォーターの利益はグーグル、アマゾン、ヤフー、イーベイのすべての利益を合わせた金額を上回っている。現在、940億ドルという途方もない規模の資金を運用しており、ダリオの昨年の報酬は30値ドル以上にも及ぶという。

ダリオの「原則」とは

食堂のグリーンピースの問題にわざわざCEOがかかわってくる同社は、明らかに金融業界のなかで特異な存在だ。
「超越瞑想(TM)」を長年続けてきたダリオは、瞑想中にひらめいた自己実現の方法をブリッジウオーターの企業文化として浸透させてきた。TMのスポークスマン的存在である映画監督のデヴィッド・リンチを招き、社員向けにTMセミナーを開いたこともあるほどだ。
ブリッジウオーターの社員1100人のリーダーであるダリオは「徹底した透明性」の確保を同社のルールとして定めている。社内用のオンライン掲示板には、「失敗したトレーディングの案件」といった重要なものから、「トイレの後に手を洗わなかった」という些細な意見や不満が投稿される。解決が必要だと判断される案件があると、マネジャーたちは事の発端となった当事者を見つけたうえで、徹底的な矯正方法を発表する。そして、これらの記録は同社の「透明性図書館」というサイトで社員がいつでも閲覧できるようになっている。
また、社員たちに相互批判をオープンな場で行うようにしている。批判を個人攻撃と受け止めたり、間違いをおそれるあまり大胆な意見を示さなかったりする社員をなくすのが目的だ。
今年3月、ネットメディアの「ディール・ブレイカー」にブリッジウオーターの社内ルールが記された「原則」という文書の内容が一部暴露された。
「原則」とは、ダリオ自身の人生や仕事に関する哲学をまとめた110ページに及ぶ文書で、以前は印刷された本が全社員に配られていたが、いまはPDF形式で閲覧できるようになっている。
ブリッジウオーターの社員はまるで宗教の信者が聖典を学ぶように、熱心に「原則」を熟読する。この記事を読んだヘッジフアンド会社専門のヘッドハンターたちは、ブリッジウオーターを「いかれた連中の集まり」だと評した。

人生はゲームのようにプレーしろ。真理は恐ろしいものではない。

しかし、同社の従順な社員たちは「組織には何かしら問題が生じるものです。『原則』にはそれを正すための方法が書かれています」と、口を揃える。彼らは、ダリオの「原則」のおかげで、社内の人間関係にとらわれることなく、また強い心で「市場で勝つ」という目的に集中できると信じているのだ。

世界経済は「巨大なマシン」

ダリオが初めて投資を試みたのは12歳のときだった。バイトで稼いだ300ドルでノースイースト航空の株を買ったのだ。その数年後、同社がデルタ航空と合併されたことによって、5ドルの株価は3倍になった。
74年にハーバード・ビジネス・スクールで博士号を取得したダリオは、後にシティグループの会長となるサンフォード・ワイルの下で先物取引を担当したものの、たった1年で会社を去ることになった。当時の事情を知っている人々によると、顧客向けのプレゼンテーションの場にストリッパーを呼んだことが問題となり解雇されたのだという。
その後、ダリオはラグビーチームの仲間と2人でブリッジウオーターを設立した。資産運用の経験が浅い2人だったが、会社設立後すぐに、数百万ドル単位で資金を運用している大手年金基金を顧客にすることができた。
顧客を増やしていく過程でダリオは、独自の投資理論を展開していた。彼は世界経済を、情勢の変化のなかで一定のサイクルを繰り返している巨大なマシンとして捉えた。そして、そのパターンとその変化の引き金となる小さな事象(金利の動きや、特定の会社の負債比率の上昇といったこと)から、景気の波を予測するコンピュータシステムを構築した。
06年、ブリッジウオーターのコンピュータは米国経済が「Dプロセス」に突入しつつあるという分析結果を出した。Dプロセスとはダリオが作った用語で、一種の国家破産の兆候を指す。ブリッジウオーターのトレーダーは、このままでは危ないと思われる投資の案件を識別していった。そして、08年春にリーマン・ブラザーズやベア・スターンズなどの投資から手を引くという決断を下した。それは、ベア・スターンズが破産する前の週のことだった。ダリオをあざ笑ってきた経済批評家も、投資家としての彼の能力を認めざるを得なくなった。

「カルト的かもしれない」

ダリオは社員管理にも経済のように、一定のパターンを当てはめることができると考えている。それを文書化したのが「原則」だ。
大きな企業が。福音書を作るのは目新しいことではない。たとえばブルームバーグ・ニュースは社員に「ブルームバーグの手引き」を読むことを義務づけている。
しかし、ダリオの「原則」はただのマニュアルではない。本の前半の「私の最も基本的な人生の原則」という部分では、彼が「自分自身を段階的に進化」させた経験が書かれており、まるで自伝のようだ。ここにはお金を儲ける方法ではなく、会社のルールに従うことの重要さ、失敗から学ぶこと、目的を達成するといった精神論が書かれている。このような「正しく生きていれば何が起きても大丈夫」という精神こそが、ブリッジウオーターーの"ルール"なのだ。
後半の「私の経営原則」には、ダリオによる277もの「職場のルール犬が列記されている。「より生産的な会議をしろ」「会話に論理性を持たせろ」といったものだ。
「部下を指導するときは、人間を動かそうとするのではなく、マシンを操作するように監督しろ」というものもある。
ブリッジウオーターに入社するのは狭き門だ。しかし入社後も、その風変わりな環境について行けずに脱落する社員は多い。新規雇用者の30%が2年以内に退社したり解雇されたりしている。
社員や元社員の多くは、同社の「透明性」は他社にはないような絆を生んでいると感じている。なかには「ブリッジウオーターを、旅立ちのときが来てもなかなか別れがたい家族のようなもの」とまで言う者もいた。「原則」が効果を発揮しているのは、社員の本来の役目は金稼ぎだという点をぼかしているからかもしれない。
ダリオを擁護する人々はブリッジウオーターはそれほどおかしな会社ではないと言う。
シリコンバレーに転職した元社員はこう語る。
「ブリッジウオーターーはカルト的かもしれません。しかしそれは、グーグルやアップルにもいえること。ゴールドマン・サックスだってそうです。強力な企業文化を創るというのは、ある意味カルト集団を創るのと同じことなのです」
もっとも、ブリッジウオーターの顧客である機関投資家はダリオの「原則」についてあれこれ報道されても気にしていない様子だ。彼らは45%のリターンが期待できれば、たとえドラッグ中毒者にでも金を渡すだろう。

戦いは選ぶな。すべての戦いに挑め

今年3月に業界誌「アブソリュート・リターン・プラス・アルフア」に、ブリッジウオーターの企業文化は「野蛮で不道徳」だという記事が掲載された。ダリオはすぐにCNBCの番組に出演し反論した。ダリオをよく知る人々によると、「原則」について「マインドコントロールだ」と言われることに、ダリオは傷ついているのだという。
同じ時期、ダリオの「原則」の新バージョンがブリッジウォーターのウェブサイトに載ったのだが、タイトルにこのような説明が加わった。
「原則。それを受け入れるか否かはあなた次第で、そのどちらも、正しいかもしれないし間違いかもしれない」
ダリオは、「すべての戦いに戦う価値があるわけではない」という新しい"ルール"を見出したのかもしれない。

リーダーは"自信過剰型"より"ウディ・アレン型"を目指せ!

シート・マガジン(USA)より

自信を持てない人ばかりが集まった世界を想像してみてほしい-。上司の顔色をうかがってばかりの日々。手術を怖がる外科医や戦場で戦えない兵士。批判を恐れるあまり、政治家が尻込みしてしまい、自分の主張を貫けないような世界である。
自信は人に前へ進む勇気を与え、目標へ向かう原動力となる。それほどまでに生きていくうえで欠かせないものなのだ。実際、自信こそ、ビジネスやスポーツなどのジャンルを問わず、成功の秘訣とされる。自信なくしで"不動産王"ドナルド・トランプやボクシングの世界王者、モハメド・アリは生まれ得なかっただろう。軋練や衝突が避けられないこの世界で、自信は確かに大きな糧となる。
その点、「自信とは、人が現実を理解する前に持つもの」と冷静に語る映画監督のウディ・アレンは、控えめな自信″を持つ部類に入るだろう。進化論に照らし合わせて考えてみれば、自信満々のトランプやアリよりも腰の引けたアレンの生存率のほうが、どう見積もっても低そうだ。だが自信は火加減と同じで、たちまちコントロール不能に陥る危険性もある。過度の自信は、判断を誤らせてしまう。その結果が、90年代末のドットコム・バブルや2008年のリ-マン・ショックだ。人間は歴史的に「自分だけは大丈夫」という過信に溺れてきた。
そうした根拠のない自信と判断の誤りが、金融システムや原子炉の溶融を招く。政治経済や科学は社会への影響が大きい分野だけに、リーダーの自信過剰は大きな危険となる。だからウディ・アレンのように"控えめな自信"を持つくらいがちょうど良い。