日本の金融改革、成長の力に

日本経済の成長力を高めていくために、規制緩和で国際競争力を回復した英国の経験を踏まえ、構造改革を一段と加速すべきだとの意見が多い。

1.規制緩和、改革の配当に期待

不良債権処理を終えた現在の日本は「いざなぎ景気」を超える戦後最長の景気拡大局面にある。ポイントは、成長をより確かなものにするために何が必要かということではないか。
米国は冷戦終結に伴って軍事費を成長分野に振り向けて「平和の配当」を得た。軍事費が小さい日本には「平和の配当」はないが、郵政民営化や規制緩和の推進によって「改革の配当」を期待できる。
人口減に直面する日本が潜在成長力を高めるには生産性が上がるような規制緩和を積み重ねるしかない。例えば人材の競争力を高めるには大学の役割が重要だが、世界の大学ランキングで日本の大学は最高の東京大学でも20位程度に留まっている。大学教育。研究の質を高めるために東大を民営化して、文部科学省の制約から開放することを検討すべきだろう。

2.英国の金融・資本市場の開放に学べ

英国は国内市場を外資に開放して国際競争力を高めてきた。この経験から日本が学べることは多い。外国企業によるに日本企業の買収に、国が細かな制約を設けるのは長期的には経済成長にプラスにならない。かつて日本の資本自由化の際などにも様々な議論があったが、競争力のある日本企業はきちんと生き残った。
M&Aは日本の企業経営になじまないと言う議論もあるが、内閣府の調査では国内のM&Aは過去10年間に10倍に膨らんでいる。M&A対象企業の方がそれ以外の企業より利益率が高いと言う傾向がある。市場のかく乱を防ぐための激変緩和措置は必要だが、過剰な規制が無くても生き残るべき企業は生き残ることを忘れてはならない。
人口減はアジア各国にとって共通の課題。日本がどう経済を運営していくかはアジア全体が注視している。

3.ロンドンに金融人材が集まる

英国経済を支える金融サービス業の現状は、過去10年間の英国の実質成長率は年平均2.8%で、この半分を金融サービス業が稼ぎ出した。製造業の寄与度はほぼゼロだ。文字通り「金融立国」といえる。ロンドンが国際金融センターとして成功した理由には、おカネや人材の面で、国際化・多様化がぬきんでて進んでいることが挙げられる。
英国の預金の半分は非居住者によるものだ。昨年のロンドン株式市場でのIPOを金額ベースでみると、英国以外の企業が半分近くを占めている。法律や会計など高度な専門知識を持つ人材が世界から集まっていることも、金融サービスの質向上につながっている。野村インターナショナルの従業員は約1500人だが、その国籍は58カ国に及んでいる。
ロンドンには海外から資金が流れ込み、一段と市場規模が膨らんでいる。外国為替取引では東京やニューヨークを上回り、ロンドン市場のシェアは世界の35%にのぼる。金融機関の国際業務の拠点としての重みも増しており、ドイツ銀行は国際業務を全面的にロンドンイ集約している。金融街のシティだけでは手狭になり、ロンドン東部の再開発地域カナラー・ウォーフや商業地ウェストエンドまで金融機関が進出している。ヘッジファンドや買収ファンドには若い人材が集まり、シティで働く人の平均年齢は31歳。若く活気に満ちていることも大きな特徴だ。
ロンドン活況のけん引役のひとつがヘッジファンド業界だ。業界団体IFSL調べでは、ロンドンに約900のファンドがあり、運用残高は欧州全体の8割を占める。世界シェアも21%と4年前から倍増した。市場と顧客の双方に近い点が魅力だ。ロンドンは、債券による資金調達の国際市場として発達したが、最近は資産運用ビジネスでも輝きを見せている。
英国の経済規模は日本やドイツに比べると小さい。しかし、英国には優秀な金融サービス業者や弁護士が集まり、金融やサービス業を展開するのに最適な場所だと言うことを明確にした。世界から優れた人材が集まり、高度な専門知識同士が結びついて、それが市場発展を後押しする構図になっている。

4.ロンドン活況、原則主義革新生む

ロンドンが国際金融センターとして成功したカギは、ロンドン証券取引所の取引参加資格を全面開放し、株式の売買手数料を自由化した1986年の「ビッグバン」にさかのぼる。投資家のコストが大きく下がっただけでなく、英国そのものが開放的な経済を目指していくうえで大きな転機となった。英証券会社は資本力がある米大手投資銀行などに相次いで買収された。徹底した競争原理が持ち込まれ、現在の効率的な市場づくりの土台になっている。
シティのルールは「原則主義」といわれ、原理原則から逸脱しない範囲で出金融機関の裁量を認めている。何かやってみようとするときに規制が足かせになることが少ない自由な雰囲気だ。金融サービスを革新していくうえで非常に重要なことだ。証券や銀行、保険まで一元的に監督する英金融サービス機構(FSA)は、金融機関との情報交換を重視しており、FSAの考え方や規制の方向性を掴む上で貴重な機会になっている。

5.外資を受け入れ、経済に競争原理を

日本は英国の成功から何を学べるか。長期にわたる経済低迷から脱した日本がなすべきことは金融サービス業の構造改革だ。日本の金融ビジネスには潜在力があり、チャンスも大きい。経済規模が大きいだけでなく、民営化や株式公開の対象企業も多い。提供できる金融サービスには厚みがあり、すそ野も広い。約10年前に日本でも「金融ビッグバン」を実施したが、銀行はいまだに国内部門に依存した収益構造だ。金融機関の創造性を促すよう規制緩和を進めていくことだ。移民の受け入れを含めて多様な人材を活用できる枠組みづくりも急務だ。
日本はいまだに外資が事業を展開しにくい。日本企業や国内市場は巨大だが、国際的でない。外資を受け入れ、競争を持ち込むことは経済の活性化につながるはず。日本オリジナルの金融商品や金融サービスの輸出も目指していくことだ。
アジアを見渡すと中国が急成長している。いずれ中国と経済面で結びつきの深い東京市場が中国関連ビジネスの金融サービス拠点になる時がくるだろう。そのためには日本は規制を緩和し、戦略的に市場改革を推し進める必要がある。
シティは産油国などと深い結びつきを持ち、オイルマネーを呼び込んで発展している。日本も中国やインドなど急成長するアジア諸国とのつながりを持っていることが利点になる。
その一方で、国内には1500兆円の個人金融資産など膨大な資金を抱えている。株式投資の割合はなお1割どまりだが、経済が成熟化するなかでリスク資産の比重を高める余地はあるはず。個人資産を有効に活用できれば、株式市場の厚みも増し、東京市場は「アジアのシティ」になる可能性を秘めている。