ゴールドマン・サックス証券 注目の職場

「世界標準」具体的に伝授

米系大手証券のゴールドマン・サックス証券(GS)は日本語を母国語とし、主に日本で学んだ入社4、5年目以上の社員向けワークショップを昨年から開いている。言葉や文化の違いから自分の意見をうまく表現できない若手や中堅を鍛え、米国など海外でも活躍できるようにする狙いだ。同様の取り組みは韓国や中国の現地法人にも広がっている。

人の話に割って入る訓練

「生煮えと思う段階でもどんどん報告を上げた方がウチでは評価される」 「日本人から見ればやりすぎと思うくらい発言・報告していい」。GSの「カルチャー道場」では、吉村隆コンプライアンス部長から参加者へ具体的な助言が飛ぶ。
他人の発言に割って入らない、意見が同じなら発言しない、全体像が見えるまで報告しない――。そんな日本的、アジア的な価値観がもとで生まれるトラブルヘの意見を小グループで数分聞交わす。解決策などについて自主的な発言も求める。
元米財務長官のヘンリー・ポールソン低はゴールドマン・サックス時代、メールを読まないことで有名だった。代わりに、ボイスメールを多用した。用件はできるだけ対面で、無理なら録音して伝えるのがゴールドマン流。伝達のスピードに加え、声に含まれる微妙なニュアンスなどの情報を重視するからだ。米国ではこんな「声の文化」が企業に定着している。積極的に発言しない人は社内に限らず、顧客に与える印象も薄くなる。

海外で活躍できる人材育てる

日本などのアジア人が会議などで控えめなイメージがあるのは事実」(吉村氏)。文化差が評価の差につながっている面もある。
語学に堪能で、アグレッシブな社員ばかり――。GSにはこんな印象がある。だが実際は、優秀だが海外でも評価される世界標準のコミュニケーションカが足りず、本国から実力通りに評価してもらえないという課題を抱えている。多くの外資の日本法人と同じだ。
それは採用方針にも原因がある。日本でも「チームワーク重視」 (上田社長室長)で、志望者を同じ部署の全員で面接する。最低限の英語力は必要だが、堪能であることまでは求めない。カルチャー道場ではそうして入社した典型的な日本人の変身を後押しする。
「吉村さんみたいに話し上手で英語がネイティブに近い人でも、会議前に原稿を用意するのか」。江原デリバティブ業務部マネージング・ディーレクター(MD)はカルチャー道場の企画に関わる過程で驚いた。江原氏は他の外資系金融機関からGSに転職した。話し方の文化差を知る研修は他社にもあるが、「問題を解決する具体的な技術までは学べない」とかねて感じていた。

評価高めるテクニック紹介

カルチャー道場では、人材の評価基準を明確に伝えた上で、評価を高めるテクニックも伝授する。いわく「ボイスメールで相手が聞くのは2分間まで。忙しい幹部向けは原稿を用意し簡潔に」「電話会議も自身への評価が決まる人舞台。発言しなければ、いないも同然とみなされる「会議で最初に話を振ってもらえるよう、司会者にメールで頼んでおくといい」。
「多様性」は「成果主義」や「顧客・信用第一」などと並ぶゴールドマンの社是。地域別純利益で最も伸びているアジアの構成比は2割強に達し、今後の成長にはアジア人の活用が不可欠と見ている。そこでGSでも声を出す訓練を厦むだけでなく、控えめに発言するアジアの慣習も米本社の幹部に事あるごとに訴えている。地道なアピールが奏功し、会議の最後に日本からコメントを求める配慮も増えたという。

佐護副社長に聞く 直接対話 利点大きく

GS流の人材育成について、佐護勝紀副社長に聞いた。
外資系企業は対話を重視する傾向が強いが、ゴールドマンはとりわけ、「声の文化」を大事にしている。
「必要なら時間、曜日を問わず、直接の権限者がすぐ集まって議論する。例えば、証券部門は米国債の格下げの際、緊急会議を聞いた。電子メールは効蛮的だが、微妙なニュアンスが伝わりづらい。直接話し素早く決定する利点は大きい」

Q:そうした環境で日本のGS社員が働くのに不利な面は。

A:日本人は話を最後まで聞き、考えをまとめて発言するよう教育されている。自国で評価されても、国際的な場で活躍する人材は少ない。テレビ会議で何度も人の発言に割って入り、考えをまとめながら話すには訓練が必要。カルチャー道場はその一環だ」

Q:米国では投資銀行への規制が強化され、成長市場がアジアヘ移っている。GSの取り組みを生かせる面はあるか。

A:「GSは経営層も含めて社員の現地化が進んでおり、米本社も東アジア地域の見本となる成功モデルとみている。カルチャー道場の取り組みは韓国や中国の現地法人にも定着させたい。いずれも外国語の能力は高いが、半分以上がローカルな社員。文化的に日本と共通する部分も多く、発言力を高める訓練が必要になっている」